上海の飲食店にから見える、「体験」のデザイン
- Design/M

- 3月25日
- 読了時間: 2分
上海へ足を運ぶたびに驚かされるのは、飲食店のクオリティが年々、加速度的に上がっていることです。それは単に「味が良くなった」という次元の話ではなく、お店の「ブランディング」が極めて緻密かつ戦略的になっていると感じます。かつての上海では、高級店は豪華で美しく、大衆店は「美味しければ多少のことは……」という、ある種分かりやすい二極化がありました。しかし今は、リーズナブルな価格帯のお店であっても、明るく清潔感のある照明や洗練された内装、そしてコンセプトが統一されたメニューや店内POPが、ごく当たり前のように整えられています。

最近のトレンドとして特に印象的なのは、素材へのこだわりを視覚的に訴求する手法です。「素材にこだわっている」「鮮度が命」といったコピーを並べるだけでなく、店舗の入り口に大型の冷蔵庫を配置し、あえて中の食材をダイレクトに見せることで、言葉以上に「鮮度」を確信させる内装設計が支持を得ているようです。ただ説明するのではなく、直感的に「良さ」を感じてもらうための仕掛けが、今の上海の街中には増えています。

こうした進化の背景には、日本以上に日常へ浸透しているデリバリー文化の影響が色濃く反映されているのでしょう。飲食店のライバルは、もはや近隣の競合店だけではありません。スマホ一つで手軽に注文でき、価格もほぼ変わらない「自宅での食事」が最大のライバルになったのです。だからこそ、わざわざ足を運んでお店で食べる「体験」の価値が、かつてないほど重要視されるようになりました。

その結果、お店の雰囲気も実に多彩になりました。地域色を前面に出した温かみのある空間、エネルギーに満ちた派手な店舗、あるいは都会の喧騒を忘れさせる落ち着いたトーン。あのサイゼリヤでさえ、今の中国ではかなり落ち着いたトーンの店づくりへとシフトしています。消費者は今、単なる空腹を満たすためではなく、そのブランドが持つ世界観やストーリーを体験するために、お店を選んでいるのです。

店舗のブランディングを考えるとき、「何を食べてもらうか」を追求するのはもはや大前提にすぎません。その先にある「何を食べて、どう楽しんでもらうか」をデザインすること。これこそが、これからの時代に選ばれるための一歩になるのだと、改めて強く感じさせられました。


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